心と体を開いていく
秋吉 そうそう、松井さんの小説を読んでいて「あれ?」と思うこともありました。たとえば燿子が初めて沢渡に抱かれる場面。触れられて「痛い」と感じますよね。でも、「どうして痛いの?」と私は不思議で。
松井 最初はそんなものですよ、長いこと間があくと(笑)。そこは実体験が入っているかな。肌にキスをされただけで、ピリピリと痛いのよ、どこもかしこも。極度に緊張していたんでしょうね。
秋吉 松井さんの実感があってこその小説ですね。「痛いひと」が悩んで迷った末に、「疼くひと」に変貌してしまう。燿子の変化には驚かされました。
松井 人はいくつになっても成長するんですよ。心も体も。とにかく先入観にも世間体にも囚われず心と体を開いて、柔らかさを取り戻すことが大切。異性にときめくだけじゃなく、興味が湧いたことにどんどんチャレンジして。
秋吉 どんどん開いていってほしいけれど、実際にはできない女性が多いわけですよね。親から教え込まれた貞操観念や価値観の影響が大きいのかしら。
松井 それもあると思いますし、母や妻としての役割、やり甲斐のある仕事など、自分が拠って立つたしかな場所があるから。リスクを冒してまで開く必要がないんでしょう。開いてみたら新たな道が拓けるかもしれないのだけれど。