一刻も早く元の体に戻りたい
手術では、肛門から15センチ上の病変部分全体を15センチにわたって切除して繋いだ。他の臓器に転移は認められなかったものの、周囲のリンパ節も一緒に切除。術後の痛みはそれなりにあったが、傷の治りも早かったため、食事療法や歩行などのリハビリも順調にこなすことができた。
私はこれまでほぼ野菜中心の食事で、酒・たばこは一切やらない。サプリメントや整腸剤を欠かさず、ヨーグルトも常食して便通には人一倍気を使っていた。しかし、二人目を妊娠した時にできた肛門部の大きな内痔核とは長いつきあい。
排便時に便に血がつくことに慣れっこになってしまっていた。怖さが先立ち、大腸の内視鏡検査を受けなかったことを、今さら後悔しても仕方ない。
リハビリに励んだ結果、術後約2週間で無事退院。そして退院1週間後には娘たちのフィアンセ二人を自宅に招いて、顔合わせをすることもできた。入院中、体調のすぐれない夫の面倒を見ながら、仕事と家事を担ってくれた娘たちからは、「結婚前にいい花嫁修業ができたから良かったよ。これまで家事をやってくれてありがとう」と涙が出るような言葉をもらえて大感激した。
もともと私は身長157センチ体重42キロと痩せ形の体形だったが、手術直前には39キロに減り、2週間後の退院時には37キロにまで痩せてしまった。そこでダンベルを持ち、スクワット運動をして、プロテインなど高たんぱくの栄養補助食品も常食した。その甲斐あってか、手術から1ヵ月後の定期検診では38キロに体重が増え、血液検査の結果も良好。主治医からお褒めの言葉をいただいた。
しかし、約1ヵ月半が経過した9月末頃、娘たちの新居への引っ越し準備の手伝いで、ひどいだるさと倦怠感に襲われた。体重は36キロにまで減少していた。こんどは主治医から「しっかり動いて、よく食べてよく眠ることが一番大事」と諭されたが、痩せ続けることが不安になり、夜満足に眠ることができなくなった。
2週間後再び、病院を受診。自宅で食生活を改善すれば、十分に回復できる状態であるとの診断だった。しかし、一刻も早く元の体に戻りたい一心で、私は自分から入院治療で栄養状態の改善をお願いするという、今思えば、まったく自己中心的な暴挙に出た。
私が入院すれば、体調のすぐれない夫の世話を、他県に嫁ぐ準備を進めていた次女に負わせて迷惑をかけるのはわかっていたのに。こんなジコチュー女を待ち受けるものは、何か? 犠牲になった家族との関係はギシギシと音をたてて悪化することになる──。