「サザエの揚げ物」(左)。カリッとした衣に包まれたサザエは、しなやかなやわらかさ。200℃の高温で揚げるのがコツだとか。衣には肝のペースト入り。そこはかとないコクがある。「金目鯛の煮付け」は、炊き立ての土鍋ご飯とともに登場。米は長野の「風さやか」を使用。料理はすべて6000円のランチコースから

女性料理人の、素材を生かすたおやかな和食

「空花」――自然を大切にしたいとの思いがこもったネーミングのこの店は、2020年10月、鎌倉から移転したばかりの日本料理店。

地下鉄・神谷町駅から徒歩1分の場所にありながら、表通りから一本裏手の静かな佇まいは、隠れ家のよう。カウンターに茶釡を設えた店内は、こぢんまりとして茶室を思わせる静謐な雰囲気だ。

「旬の食材を取り入れ、各々の素材の持ち味を前面に打ち出したプレーンな料理を心掛けています」とは店主の脇元かな子さん。ミシュラン三つ星の和食店「かんだ」で6年間修業、銀座「アコメヤ厨房」では料理長を務めた実績を持つ。ここでは、鎌倉での経験も生かし、女性らしく細やかな料理を楽しませてくれる。

「蛤真薯のお椀」。茶巾絞りの蛤真薯は、蛤のやわらかな身の部分を、同じく蛤の ひもや貝柱でとったエキスと共にペースト状にして葛でつないだもの。見た目は地味だが、味わい深い佳品

例えばお椀。椀種の蛤真薯のほかには椀妻の若布と吸い口の花柚子のみというシンプルさだ。その蛤真薯にしても、魚のすり身などは一切加えず中身は蛤のみ。一口啜れば、磯の風味が口いっぱいに広がっていく。

また、相模湾で獲れるサザエを丸ごと使った豪快な揚げ物や、白飯にぴったりの金目鯛の煮付けなど、三崎や佐島から毎朝届く魚介類も、鎌倉土産ともいうべき同店のスペシャリテの一つ。その味をランチでも楽しめるのは嬉しい限りだ。