(イラスト:おおの麻里)
強引に迫られた末に結婚し、忌み嫌い続けていた夫が死んだ。離婚計画が心の支えだったはずなのに、なぜか生きる気力をなくしてしまう。そんな時に出会った、年下のあの人。楽しい時間を過ごすうち、切ない思いがあふれだして──(「私たちのノンフィクション」より)

欲望を満たすだけの夫婦関係

思えばよく耐えてきた。ずっと離婚を望んでいたのに。

相性がよいわけでもなく、面白みもない夫だった。長年にわたって不器用な男をあやすような思いで接し、胸の内では静かに離婚計画を立て、それを心の支えにしながら過ごしてきた。

離婚するときは、共同名義にした自宅の土地の3分の1の所有権を主張すると心に決め、ある程度の経済力を確立してからもちかけよう。そのためにと、生命保険の営業の仕事も得た。

若い頃の夫は些細なことで怒り出したので、2人の娘には言動に細心の注意を払うように言い聞かせたものだ。それでも夫は手をあげたことがある。娘が「お願い、お父さん」と甘えたとき、力まかせに平手打ちで返し、娘の目の端から血がポタポタと流れ落ちた。

なぜこの人と結婚したのだろう。OLをしていた22歳の頃、お正月に郷里の九州でお見合いをした。私はすぐにお断りしたのに、1ヵ月後に東京の私のアパートの戸をノックしたのが、当時27歳の夫だった。わざわざ遠方から来た人と玄関先で立ち話というわけにもいかず、部屋に入れたのだった。それがすべての失敗の幕開けになろうなど、うぶな私にはわからなかった。

気がついた時には全裸にされ、一番恥ずかしいところまで触られキスされていた。私はもうこの人と結婚する以外の道はありえないと思い込んでしまったのだ。

その後の結婚生活においても、じつに手軽に夫婦関係を求められてきた。夫は囲碁が趣味で、日曜の朝はテレビで2つの囲碁番組を観る。その合間の15分間が夫にとって恰好の時間だ。やさしさや情緒とは無縁の、欲望を満たすだけの簡単に済ませるような行為だった。