和子さんと2人子ども(背中にいるのは美子ちゃん、撮影はお父さん。神藏美子写真集『たまきはる』より)

シルバーカーに掴まって10メートルで

老人ホームはコロナ感染を警戒して、外部の人を立入禁止にしていたのですが、感染対策をした面会室で会えることになり、昨年のクリスマスイブの昼間、小さなケーキを持って、美子ちゃんと一緒に会いに行きました。元旦には、介護の人に協力してもらって我が家に来て、一緒におせち料理を食べる予定になっていました。和子さんもそれを楽しみにしているようでした。

ところがその夜、和子さんが誤嚥を起こして肺炎になってしまい、呼吸困難になっているので酸素吸入をしているという連絡が入りました。美子ちゃんは「死ぬかもしれない」と言って泣き出したのですが、入館禁止なので会いに行くことも出来ません。

大晦日になって容態が落ち着いたようなので一安心しましたが、我が家に来るような状態ではありません。1年前には、和子さんと我々夫婦で箱根の旅館に行って、3人で正月を迎えたのですが、「あの時、行っといて良かったね」と言いながら、和子さんのために注文した少し豪華なおせち料理を、美子ちゃんと2人だけで食べました。

和子さんは固形物を食べなくなり、点滴で栄養補給するようになりました。和子さんが食べられる柔らかいものや、ぼくが作ったカボチャのスープなどを持って行くこともありましたが、食べてもらえないことも度々ありました。

一度だけ外出の許可をもらって、和子さんを散歩に連れ出したことがありました。シルバーカーに掴まって10メートルぐらい歩いたところで、和子さんが「やめとくわ」と言いました。天気のいい日だったので、以前なら少し無理をしてでも近くの公園まで歩いて木々を眺めていたはずですが、そういう興味を失ったのでしょうか。美子ちゃんは、「あんなに好奇心があったママなのに、もうなくなったのかな」と寂しそうに言っていました。