イタリア・パドヴァで行きつけだったレストランからメールをもらったというヤマザキさん。「コロナ禍でこの先続けられるかどうか」という内容を読んで思い出したのは、同じくその店の常連だったお年寄りの笑顔だったそうでーー。(文・写真=ヤマザキマリ)
行きつけだったレストランから届いたメール
パドヴァの家に滞在している間、週に3回は訪れていた近所の小さいレストランのオーナーであるフェルッチョから突然、「ご主人にアドレスをうかがいました」と短いメールが届いた。娘婿が継いだレストランの経営がコロナの影響で行き詰まっていて、あなたがイタリアに戻ってくる日まで続けられるかどうか、という内容だった。
料理人のフェルッチョは若い頃、パドヴァの歌劇場のそばにある老舗のレストランで働いていたこともあって、彼の友人たちの多くは1960年代に活躍した俳優や音楽家たちだった。彼の作るヴェネチア風レバー料理が評判で、それ食べたさに遠くからも客がやってくるほどだったが、結婚を機に独立して今の小さなレストランの経営をはじめ、そこはやがてリタイアした芸術家たちの集いの場となった。しかし今から数年前、店を娘夫婦に任せてからの客層は見るからに若年化し、老齢となったフェルッチョの仲間たちはさまざまな理由で次第に姿を見せなくなっていった。
フェルッチョは客層が変わっても毎日厨房に入って料理を続けていた。アメリカからイタリアに戻ってきたばかりの私たちがパドヴァで暮らしはじめてまもなく、この店に通うようになってから、フェルッチョの昔からの友人の生き残りだという常連の老人と仲良くなった。