素材を料理する
結婚は私の料理の腕を上げました。子どもが生まれたことは、食べ物のことを真剣に考える糸口になりました。
だって子どもが育つのはまず食べ物ですものね。からだにいいものを与えなきゃ、って思うのは当然でしょ。
私が小さい頃は自然のものを食べてすくすく育ったけど、今、加工して売っている食料品のパッケージに書いてある内容を読むと添加物がいっぱい。一回ならたいしたことなくても、毎日毎日からだに溜まっていくと思うとかなり怖いです。
だから私はできるだけ加工してあるものじゃなく、素材を料理するようにしました。
添加物の怖さだけじゃなく、でき上がった物を買ってきて子どもに与えるのは、親が手を抜いているようで、うしろめたい気がします。でも仕事を持っていると、料理する時間がなくて、できあいのものに頼らなきゃならないこともあるのね。そんなとき、私は少しだけ手を加えるように努めました。
「頑張って料理している」という姿を見せる意味
例えばレトルトのカレー。ニンジンやタマネギ、セロリなどを炒めてから煮て、カレーと一緒にあたためる。クミンやガラムマサラなどのスパイスを入れる。
野菜を炒めてから煮るのはでき上がってるカレーの中身と同じやわらかさにするためです。スパイスでわが家の味になる。とにかく子どもにわが家の味を憶えてもらいたいと思うわけ。
子どもが小さいとき、宿題するのも「ここでやりなさい」ってキッチンのテーブルでやらせてたの。私がエプロン姿で立ってる横で。ゴボウを洗ってる水道の音とか、庖丁とまな板でトントンやってる音とか、じゅうじゅう炒めてる音とか、みんな聞かせてね。
子どもがおなかすかせて「何か作って」と言ったら、それを作ってる姿を見せるのが大事だと思ったんです。お母さんが一所懸命作ってるその過程を見てたら、「はい、できたわよ」って言ったときの食べる喜びも倍増するし、待つ時間も楽しくなるでしょう。
知らない人が作ったできあいのものをチンするだけで出すのと違って、作るプロセスがわかる。家族のためにお母さんが頑張って料理やってる、って姿を見せてれば、いい子になってくれると思うなあ。
※本稿は『家族の味』(著:平野レミ、絵:和田誠/ポプラ社)の一部を再編集したものです。
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