やっぱり親には病気のことは言えない

その日は、お母さんがきていた。お母さんは1人で喋っていた。どうやら地方から来ているらしく「東京駅から電車じゃなくてバスで来たのよ、この前は、ほら、迷ったから、東京駅で」と、数十分東京駅からのルートの話をしていた。



本連載がまとまった青木さやかさんの著書『母』

急にお母さんの声が聞こえなくなり、しばらくしてお母さんは、それはそれは嬉しそうに言った。

「寝れたねえ」

娘さんはしばらく寝ていなかったのだ。お母さんは、娘さんが寝られたことが、
それはそれは、嬉しかったんだ。

その「寝れたねえ」の一言は、お母さんがどれほど娘を心配しているかが痛いほど伝わってきて、わたしは、どうにもこうにも感情がコントロールできなくなって声を押し殺して泣いた。

そして、やっぱり親には自分の病気のことは言わない絶対。と決めた。