手術後、グレーの景色にカラーが戻ってきたと感じた(写真提供◎青木さん)
青木さやかさんの連載「48歳、おんな、今日のところは『……』として」――。青木さんが、48歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、初めてがんに罹患していたことを明かしたエッセイ「突然のがん告知。1人で受け止めた私が、入院前に片づけた6つのこと」が話題になりました。今回は、「がん手術のあと退院して仕事復帰するまで」について、赤裸々に語ります。

前回●「がん手術後の痛みや吐き気。治療だけでは癒されないと気づいた時、父の死への後悔が消えた」

カーテンの向こうの母娘

初期の肺線がんの手術は無事終わり、入院生活も残り2日ほどになった。

術後におきた熱と吐き気はおさまったが、匂いのある食べ物はまだ体が受け付けなくて(軽い悪阻のよう、売店にプリッツを買いにいってもらい (病院には看護師さんではなくサポートしてくださる方がいた)、プリッツを食べながら小説をたのしんだ(娘がうまれて初めてかもしれない、小説を読むなんて!)。

小学生の娘の運動会で(写真提供◎青木さん)

手術が終わり、グレーがかっていた景色に、カラーが戻ってきた。
少し余裕がでてくると、自分以外に意識が向いた。

カーテンを隔てた隣には女の子が入院していた。
女の子は学生さんで、状態は良くなさそうだった。入れ替わり立ち替わり、いろんな科の先生が来ていた。女の子は夜中も起きている気配がした。看護師さんをよんで、痛いです、と小声で伝えていた。眠れていなかったのだと思う。