160km走るとなると、私にとっては「試合」も同然。攻略法を練らないと気が済みません。それで、事前に160kmを何本か走って練習したい、と夫に相談したんです。すると彼は呆れたように、「練習で完走しちゃったら、イベントで何の感動もないよ」と。
「練習するな、楽しもう」。その言葉を信じて、80kmしか走ったことのない状態で参加しました。苦しくてたまりませんでしたが、すごく楽しかった。スポーツ本来の楽しさを知ることで、バレーボールの呪縛から少しずつ解き放たれていった気がします。体調もすこぶるよくなって、いろいろなことがうまく回り出していきました。
ところが2015年、大学のバレーボール部の監督を引き受けたころから、また調子が悪くなってしまって。二十数年ぶりの現場復帰で気持ちは前向き、やる気もありました。それでも「勝たせなければ」というプレッシャーは大きかった。大学へ車を走らせていると動悸が激しくなり、結局Uターン。そんな状態が続いていたある日、先ほどお話しした不整脈の発作を起こしてしまったのです。
私は、精神的な負担が体にダイレクトに出やすい体質なのでしょう。考え方によっては、その素直な体のおかげで心臓の病気に気づくことができたとも言えます。
監督が怒ってはいけないバレーボール大会を始めて
病気になり手術をしたことで、私自身、大きく変わりました。まずは生活習慣。不規則だった生活は、日の出とともに起きて早めに休む生活に。毎日飲んでいたお酒も、量をぐんと減らしました。庭に梅の木があるので、毎年梅酒を仕込んで楽しんでいます。そうすると、量は少なくても、満足感でいっぱいになるんです。
また、ストレスを上手に解消する方法はないかと考えた結果、学ぶこと、知識をつけることが一番だと気がつきました。具体的には、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」、短い言葉でやる気を引き出す「ペップトーク」、本番で実力を発揮する手法を学ぶ「スポーツメンタルコーチング」――といったものです。
もともとこれらに興味を持ったのは、15年からスタートした「益子直美カップ小学生バレーボール大会」がきっかけです。この大会は、監督が怒ってはいけないルール。子どもたちが心からスポーツを楽しめる環境をつくりたくて始めたものでした。
ある時、参加チームの監督から「怒らないなら、どう声をかけたらいいの」と聞かれたのですが、具体的に答えられなくて。その時から少しずつ勉強を始めていたのです。