研究者たちは、昼夜を惜しんで原子の力を利用した新型爆弾を開発していた (C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

なぜ、そう思ったかと言えば、ひとつは、この日記に、日本も原子の力を利用した新型爆弾の研究をしていたと書かれていたこと。日本は原爆の被害者だとばかり思っていたのが、加害者になる可能性もあったのだ、と。それまで自分がまったく知らなかった秘密の歴史に強く惹かれたんですね。

 

現代でいうAIやゲノム開発のような研究だった

もうひとつは、彼の日記から、若い科学者たちが生き生きと研究に取り組んでいる姿が想像できた。彼らが取り組んでいた原子物理学は、当時はまったく新しい学問で、今で言えばAIやゲノム開発といった、将来、どこにつながるかわからない未知の学問だったはず。この青年たちは、その新しい学問の魅力や魔力のようなものに惹かれている――その高揚感を日記から感じて、僕自身もワクワクしたのです。

もちろん、歴史の結果から見れば、核兵器につながる研究は非常に罪深い研究でもある。でも、そこに希望の光を見出している若者たちの思いとのギャップに興味が湧いて、その事実を伝えることはとても大事なことなのではないかという思いから、一つの作品として映画にできないかと考えました。

とはいえ、その思いを実現させるのは、正直な話、苦難の連続でした。科学をテーマに映画を撮るには、美術セットにも膨大なお金がかかります。さらに、「核兵器」をテーマに描くことにアレルギー反応を示す人が想像していた以上に多かった。企画の途中段階で東日本大震災が起こり、原子力を利用することの意味が問われたことで、ますますデリケートな問題になってしまって……。

でも、福島の原発で事故があったからこそ、このテーマを絶対に作品にしなければという思いが、僕の中ではどんどん強くなっていきました。震災から10年たった今、このテーマを世の中に問うてていかないと、震災も戦争もどんどん忘れ去られていってしまう。だからこそ、今やらなきゃいけないという僕の思いに賛同してくれるプロデューサーやスタッフが少しずつ集まってきてくれて、2019年の夏にようやく撮影を開始することができたのです。

「やっと、この作品を撮り始めることができるんだ」と、撮影初日は感無量でした。戦争という暗い時代背景や核兵器の是非といった深刻な問題もはらんでいますが、それでも自らの青春を精一杯生きている若者たちの映画を撮っていけるということが、僕にとっては本当に嬉しかったのです。