ダサイ演技もできる吉沢亮

みなさんの力のおかげで、『映画 太陽の子』を完成させた後、僕は今、大河ドラマ『青天を衝け』の演出を手掛けています。主人公の渋沢栄一は歴史上の偉人ですが、いわゆるスーパーヒーローではなく、お百姓さんから出発して実業家になった、ごく普通の「庶民その1」だと僕は思っているんですね。

だから、あまり大上段に構えるのではなく、自分たちと同じように生活している人たちの目線を忘れないように描きたいと思っています。

その渋沢栄一を演じていてくれているのが吉沢亮くん。ご存じのように、彼はとってもカッコイイでしょう。でも、そのカッコよさを自分の武器として身構えていないのが素晴らしい。ダサイ表情やしぐさも、ごく自然にやって見せてくれる。それも、決して無理に3枚目を演じているわけではなく、「僕の中にこういうところがいっぱいあるので、ラクなんです」と、あっけらかん。

吉沢くんならもとっといくらでもカッコつけて演じられるはずなのに、そんな気持ちは微塵もなくて。そんなところが、名誉欲や自己顕示欲のために人の上に立ったのではない渋沢栄一のキャラクターと重なっている。この作品を、ひとりの庶民の目線で描いて行こうという趣旨にも、吉沢くんはぴったりなんですよ。

この『青天を衝け』や朝の連ドラ『ひよっこ』など、僕は大学卒業後にNHKに入局し、一職員としてこれまで数々のドラマを手掛けてきました。そもそも、「ドラマの演出をしたい」という思いでNHKに入ったものの、最初の数年間は教育番組を作るセクションに配属されて、合唱コンクールなど、歌番組の演出のアシスタントをしたり、ドキュメンタリー番組の制作に携わったり。

今、思えば、教育番組を作っていた時代に様々な出会いがありました。素敵なカメラマンの方と知り合ったり、仕事を通じてお世話になった北海道の農家の方の姿を10年後に短編映画にさせていただいたりとか。そんな数々の経験が、現在、ドラマや映画の際にも生かされているように感じます。

ありがたいことに、今回の『映画 太陽の子』のように、時折、NHK以外のスタッフの方々と一緒に仕事をする機会にも恵まれています。立場を超えて演出の仕事ができることに感謝しながら、これからも自分が撮りたい作品を作り続けていけたら最高だなと思っています。


(C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
『映画 太陽の子』8月6日(金)、全国公開
(C)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
【配給】イオンエンターテイメント