仕事の時に使う虫メガネ。フクロウのモチーフが大好きでコレクションしている

演出家と打ち合わせのため3泊5日でポーランドに行き、関西国際空港に戻ってきてそのまま京都で対談、その足でさいたま芸術劇場に飛んでいき稽古を見て家に帰る。そんな日々です。ところがぜんぜん疲れないし、眠くならない。どう考えても異常ですよね。気分がハイになりすぎて、疲れや眠気を感じるスイッチをオフにしていたのだと思います。

ある日、両手首に激痛が走り、やがてその痛みが全身に広がっていきました。激しい痛みで掛布団を引き上げることすらできない。夫に電話して「痛いよー」と泣きつき、病院に連れて行ってもらいました。検査の結果、リウマチ熱と判明し、1ヵ月近く入院することに。病気になったことで、自分の体を過信してはいけないと深く反省した……はずなんですが。病室に原書や辞書を持ち込んで『リチャード三世』を訳し終え、病院を抜け出して芝居を見に行ったりもして。とんでもない患者。(笑)

きわめつきは、退院を翌日に控え、嬉しくてちっちゃな缶ビールをぐびり。すると全身に蕁麻疹が出て、退院はおあずけに。たぶん体が、「こいつ、このまま退院したら、またいい気になるぞ」と反抗したのでしょう(笑)。それからは、真剣に慎まなくては! と気をつけるようになりました。

 

リビングと16世紀を行ったり来たり

シェイクスピアに取り組んでいた28年間は、上演に合わせて年に1~2本のペースで翻訳を続けてきました。その年月の中で一番つらかったのは、3年前に夫が食道がんになったことです。最悪の事態も覚悟しなくてはいけないと思い、『ハムレット』に出てくる「覚悟がすべてだ」という言葉を、呪文のように自分に言い聞かせていました。でも本心を探ってみると、絶対に治ると信じていたのです。

手術はうまくいき、その後のリハビリも順調。一時は大好きな歌を病室で歌うほどでした。ところが誤嚥性肺炎になってしまい――。重篤な状態でしたが、本人が家に戻ることを希望していたので、自宅で介護することにしました。