大道芸人の血が流れているよう
強烈な個性の持主のように見られる彼女は、実際には自分がない人間なのかもしれない。その虚無の深さが、役者の才能というものではあるまいか。
とかく男の噂の絶えない太地喜和子だったが、彼女のなかには男性への根づよい不信感がわだかまっていたような気がする。
太地喜和子が信頼していたのは、男性ではなかった。女優の新橋耐子さんのことをとても頼りにしていて、よく彼女のことを話していた。
太地喜和子は伊豆で自動車事故で死んだ。その事故について、いろいろと推測する向きが多かったが、真実は本人にしかわからない。
雑誌の対談は、こんなふうに締めくくられている。
◆
太地 あたしはネ、ちょっとそうなんですよ。(坐り直して)サディスティックなところがあるの、精神的に。
五木 そうかもしれないね。ぼくはあなたと喋っていると、何だか共犯者みたいな気持ちになってしようがない(笑)。同類っていうか、きみが女泥棒で、ぼくはうしろから、あすこ、こうやってああやって盗めっていうのが、いちばん合ってるんじゃないかと思う。
太地 それ、面白そうね。やりましょうか。
五木 ぼくがおだてて、きみが調子にのって「じゃ、やってみるか」なんて(笑)。だからきっとぼくときみとは美人局をやるとうまくいくと思うね。「あれ、ちょっとキザだから、こういうふうに引っかけて」「うまくいくかしら」「絶対大丈夫」「じゃいってくるわ」とか。そういう感じ。(笑)
太地 やれる。絶対できる。(笑)ときに、ちょっとトイレ行ってきていい?
五木 昔のお女郎は、そんなふうに客をごまかして回しをとったもんです。(笑)
◆
太地喜和子の体のなかには、なんとなく昔の大道芸人の血が流れているように感じることがあった。同時にどこか聖なる場所からやってきた女という気配もあった。
彼女は自分が笑うとき、ガバッと大口をあいて笑うのが男心をそそるのだと言っていた。コロナの季節、つねにマスクをして目もとだけでアピールする時代は、たぶん太地喜和子にとっては、ひどく棲みにくい世の中だろうと思う。ガルシア・ロルカの名前も、最近はあまり聞かなくなった。