感情を押し殺してきた対象の大半は「親」

では、誰に対して感情を押し殺してきたのでしょうか? その大半は、もちろん親に対してです。

でも多くの親は、「こんなに好き勝手なことを言い、やっているのに、この子のどこが我慢しているのか?」と言います。実は、親が未だに気づいていない、信じられないとさえ思っている、この行き違いの原因こそが、問題の核心なのです。

問題の核心は「親子の行き違い」(写真提供:写真AC)

ここで誤解していただきたくないのですが、私は親にすべての原因があると言うつもりはありません。そう決めつけるのは大きな誤りだとさえ思っています。

どこにかわいい我が子をひきこもりや病気にしようと思って育てる親がいるでしょうか。どんな親も我が子には立派な人間になってほしいと願って一生懸命に育てたはずだと私は信じたいと思っています。

それでうまくいったケースも世の中には数え切れないほど存在しているのも事実でしょう。ただ、なかにはそのやり方では、心に行き詰まりを抱えてしまう繊細な子どもがいることも事実なのです。そのような心の行き詰まりを抱えた子どもや家族と接して感じるのが、多くの場合、子どもは親が思うよりはるかに繊細な感受性を持っているということです。

一方、立ち直ったすべてのケースで、ターニングポイントになっているのは、親による子どもへの「傾聴と共感」です。

「傾聴」とは、我が子の話を真剣に聴くこと。「共感」とは、話を受け止め、我が子の心の奥底にあるつらさや悲しさといった感情を理解し同じ気持ちになろうと努めることです。親がただひたすら子どもの話に耳を傾けるだけで子どもは大きく変わります。

著者が新刊で紹介した傾聴・共感の方法は「家族療法」と呼ばれる治療法の一環として行われたものです。ケースによっては心の悩みに苦しむ成人の子ども本人ではなく、親だけに指導されることで、たとえ精神疾患であっても、そして診察に一度も来ないお子さんまでもが回復することもまれではありません。 

ここで「傾聴と共感」の一例として、親が我が子への考え方を見つめ直し、接し方を変えたことで、子どもが心の行き詰まりから立ち直った例をご紹介しましょう。

行き詰まり具合としてはかなり重い部類に入りますが、こんな厳しい状況からでも子どもは立ち直れるのだということを示す好例だと思います。