「親の正論」は一発逆転どころか四面楚歌を招く

ひきこもった子どもが未成年や20歳そこそこであれば、親子の問題の所在もわかりやすいことが多く、常識的にも親が子への関わりを受け入れやすく、親もまだ若いので子の問題に向き合うエネルギーもあります。

しかし、子どもの苦悩やひきこもりが長引いて自立できないまま中年を迎えると、親は我が子を支えることに疲れ果て、「もうどうすることもできない」「成人しているのだから、この子は自分の力で立ち上がるしかない」「親の努めは、もう終わっているのだから……」とあきらめてしまいがちです。

ときに親が自分の不安解消にしか目がいかず、一発逆転を狙った言動の典型が「お前なんていらない」とか「家を出ていけ」といきなり罵倒するパターンです。

親としては正論を吐くことで「愛のムチ」を振るってやった、などと自身の責めを負うことから目を背けることができても、言われた子どもは、中年になって追い出されるとなると、四面楚歌の状況に一気に追い込まれます。

その際、衝動が内側に向けばSさんのように自傷行為に及びますし、「親のお前のせいでこうなったのに」と恨みが外に向けばときに他害となります。「ひきこもりの中年息子が、自立を促した老親を金属バットで傷害を与えた」と、警察沙汰になり報道される事件の背景にはこのような経緯が多々あります。

それでも、Sさんのように親が自分のことをわかってくれたというだけで、子どもは大きな苦しみから抜け出すきっかけがつかめ、長く苦しんだぶんだけ、かえって親に対して深い感謝の気持ちが生まれることさえ珍しくはないのです。

とりわけ親のことでこれほどにとらわれて苦しむ子どもというのは、本当は親が大好きでたまらず、大好きな親に認めてほしいという気持ちが人一倍強く潜在しているから、このように苦しむのだと理解してあげたいものです。

※本稿は、『8050「親の傾聴」が子どもを救う』(マキノ出版)の一部を再編集したものです。


『8050 親の「傾聴」が子どもを救う』(著:最上悠/マキノ出版)

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