シャーロック・ホームズ(〈ストランド・マガジン〉1891年12月号)。英国グラナダTVドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』では、ジェレミー・ブレットが原作イラストそっくりに演じた。(画像提供◎北原さん 以下同)
現在、東京宝塚劇場で宙組が公演中の『シャーロック・ホームズーThe Game is Afoot!-~サー・アーサー・コナン・ドイルの著したキャラクターに拠る~』。トップの真風涼帆がホームズを、宿敵・モリアーティ教授を芹香斗亜、唯一ホームズを出し抜いた女性・アイリーン・アドラーを新娘役トップの潤花が演じて話題となっている。

19世紀後半から20世紀前半に活躍した小説家、アーサー・コナン・ドイルの小説が、なぜ現在もファンを魅了し、彼の生み出した架空の人物、ホームズが探偵のアイコンとなったのか。小説だけではなく、舞台、映画、ドラマ、コミック、ゲームと世界中でさまざまな形で愛されるのはなぜなのか。宝塚の公演パンフレットにも寄稿し、『初歩からのシャーロック・ホームズ』を上梓した、ホームズ研究家の北原尚彦氏に聞いた。

パイプに虫眼鏡は探偵の「アイコン」に

シャーロック・ホームズ――世の中のほとんどの方が、少なくとも名前だけは知っているはずだ。名探偵であり、相棒はワトスン博士。彼のイメージ(鹿撃ち帽、インヴァネスコート、パイプ、虫眼鏡)は、探偵の「アイコン」とすら化している。これらのアイテムの幾つかを持っていれば、それは探偵か調べものをしている人物を意味するほどだ。

シャーロック・ホームズが初めて世に出たのは1887年。それから既に百数十年が経過しているにもかかわらず、その人気と知名度は衰えることを知らない。

ホームズの名を全く聞いたことがない、という人のほうが、絶対的に少数派だろう。だが、シャーロック・ホームズの本を読んだことがあるか、という問いに対しては、手を挙げる方はがくっと減るだろう。ましてや原作をすべて読んだという方は、さらに減ることと思う。

ほかの探偵小説に比べれば読まれているほうだとは思われるが、誰でもというわけにはいくまい(ほんのごくごく少数かもしれないが「実在の人物だと思っていた」という方すらいるかもしれない)。

原作者が誰であるか、問われても答えられない人もいるだろう。アーサー・コナン・ドイルという名前を聞いたことがあっても、「『名探偵コナン』のネーミングの元になった人?」というぐらいの認識の人のほうが、今や多いかもしれない。

ホームズが生きたヴィクトリア時代のロンドン地図
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