犯罪界のナポレオン――モリアーティ教授

シャーロック・ホームズの宿敵は誰か、と問われると、あまり詳しくない人だと「アルセーヌ・ルパン?」と答えてしまうかもしれない。だがそれはモーリス・ルブランの生んだキャラクターであり、ルパンのシリーズ中に『ルパン対ホームズ』という単行本があるが故の誤解だろう。

コナン・ドイルの書いたホームズ・シリーズの中に登場するホームズ最大の宿敵と言えば、それはジェイムズ・モリアーティ教授しかいない。

モリアーティ教授は「最後の事件」にて登場。ホームズに言わせれば《犯罪界のナポレオン》であり、ロンドンの悪事と迷宮入り事件のほとんどの黒幕である。自らは手を下さず、多数いる手下を駆使する。何らかの悪事を働こうとするものは彼に相談すれば、手はずが整えられて、実行に移すことになるのだ。巣の中心にいるクモのようなものだ、ともホームズは語っている。

表向きは(というか実際に)数学の教授。名門の生まれで立派な教育を受けた、生まれながらにしての驚異的な数学の天才。

21歳で二項定理に関する論文を書き、ヨーロッパ中にその名を轟かせた。英国のある大学で教授のポストを得たが、悪の道へと向かい始め、黒い噂が流れたために大学を辞めざるを得なくなった。ロンドンで陸軍軍人の個人教師になったが、いつしか犯罪界の王となっていたのである。

外見は、背がものすごく高いけれども背中が曲がっている。がりがりに痩せており、額は張り出して、両目は深く落ちくぼんでいる。頭を前に突き出して、爬虫類のように左右にゆらゆらと動かしているのが特徴。

ジェイムズ・モリアーティ教授(〈ストランド・マガジン〉1891年12月号)。コナン・ドイルがホームズの執筆を止めるため、ホームズに匹敵し得る悪として「最後の事件」でいきなり登場した