今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(笹井恵里子著/中央公論新社)。評者は詩人でエッセイストの白石公子さんです。

片付けるほどにゴミ屋敷が脳裏をよぎる

想像以上に壮絶だ。このコロナ禍で、なぜかゴミ屋敷、片づけと断捨離、孤独死の関連本を手にとることが増えている。本書がこれまで読んだものと少し違うのは、著者が実際に「生前・遺品整理会社」の作業員としてゴミ屋敷を片づけ、取材・レポートしていることだ。

仕事の過酷さは例えば〈作業員の中には、ゴミ屋敷で小さな傷口から雑菌が入り込み、抗生剤を投与するも回復せずに足切断となったり、感染症を発症した人もいた〉というエピソードからも窺えるだろう。

重度のゴミ屋敷になるとトイレが使えなくなり、ペットボトルで用を足すようになる。作業員はそれを「ションペット」と呼んでいること。放置されたションペットの最高記録は一軒に5400本。

ハエが大量発生した孤独死現場。身の危険を感じるほどの悪臭と死臭――モザイクなしのレポートは想像を絶するすさまじさである。

ゴミ屋敷になってしまう要因のひとつに「ためこみ症」という精神疾患がある、と明確に述べている。「ためこみ症」は、ある時期まで、極度な潔癖症にみられる「強迫症」の一種とされてきた。ゴミ屋敷と潔癖症は一見相反するものだが、実はよく似ていて、どちらも根底には完璧主義があるという。

私がこのコロナ禍にゴミ屋敷の関連本ばかり読む理由がこのあたりにあるようだ。毎日、消毒・除菌しまくり、一人暮らしの部屋を片づけるほどに、ゴミ屋敷が脳裏をよぎるようになってしまった。ちょっとしたきっかけで自分もゴミ屋敷の住人になってもおかしくない、と思う。

消毒と片づけに躍起になりながら、その一方でゴミ屋敷の関連本は読まずにはいられない。コロナ禍とゴミ屋敷は今日的で深刻な問題を孕んでいる。