「11年ほど前に訪れたドイツで、気に入った鷹の木彫刻を手に入れ、そばで眺めるうちに〈自分にも彫れるかもしれない〉と思い立ったんです」(撮影:本社写真部)
「千の風になってコンサート~聴いてよくわかるクラシック3~」で全国ツアー中のテノール歌手、秋川雅史さん。2021年第105回記念「二科展」の「彫刻部門」に初めて自身の作品「木彫楠公像」を出品、芸能人初の入選を果たした。精巧なその作品は、プロの彫刻家をも唸らせるほど。木彫刻との出会い、声楽家との二刀流の生活ぶりなどを伺いました。(構成=岡宗真由子 撮影=本社写真部)

「自分にも彫れるかも」と見様見真似で始めて

生まれ育った愛媛県・西条市では、年に一度の祭りの時に、それはもう見事な木彫刻を施されただんじりが集結します。その記憶が刻まれているからなのか、彫刻を見ることは昔から好きでした。

11年ほど前に訪れたドイツで、気に入った鷹の木彫刻を手に入れ、そばで眺めるうちに「自分にも彫れるかもしれない」と思い立ったんです。僕は幼い頃から絵が得意な方ではなかった。絵って、実際には立体で存在しているものを平面に落とし込む作業で、今でもやり方が理解できません。僕にとっては、360度見えているそのままを彫り出していく彫刻は簡単に思えたんです。もちろん、大抵の方は逆だとおっしゃいますけれど。(笑)

いざ始めるとなった時は、東急ハンズに出向いて、小学生が学校でそろえる5本セットの彫刻刀を買いました。「レリーフの彫り方」というような本と、それ用の板も買ってきて、見様見真似で彫り始めました。

でも、やり始めるとわからないことだらけだったので、我流ではだめだと思った。そこで、ネットで「木彫刻」「教室」「東京」と検索をかけて、1番上に上がった先生を訪ねることにしました。それが今も教えていただいている関侊雲先生との出会いです。