21年4月、リハビリスタッフと自宅周辺を歩く三浦さん

大事なのは無理せず継続させること

歩くことは、人類の行動の原点です。足腰を中心に全身の筋肉が鍛えられ、有酸素運動によって体力もつく。ジョギングに比べると膝や足首への負担が少なくケガをしにくいので、高齢者に向いているのも好ましい点です。

私には登山という目的があるため、重りを使った《攻め》の歩行トレーニングを続けましたが、ただがむしゃらにハードなことを続けたわけではありません。むしろその反対です。

たとえば、トレーニングを再開してからは、朝の運動は避けるようにしてきました。中高年になると、早朝は心筋梗塞や脳卒中、不整脈などの発症率が上がるというデータがあります。

私も高齢者の例にもれず朝は早く目覚めるのですが、すぐには動き出しません。ボーッとしたり、新聞を読んだりテレビを観たりしながら少しずつエンジンをかけていき、トレーニングはお昼から始めていました。

また、悪天候や体調不良の時は迷いなく休む。体調が悪くなくても、どうしても気分が乗らなければ、サボってしまう日だってありましたよ。

とにかく無理をせず継続させるのが大事。この考え方のヒントは、「年寄り半日仕事」という諺にあります。つまり「体力の衰えた高齢者は、半日分だけ働けばいい」ということ。実は80歳でエベレストに挑もうとしていた頃、不整脈や骨折などで体調的にはかなり厳しい状況だったのです。そこで思い出したのが、かつてどこかで耳にしたこの言葉でした。

1日フルに活動するのではなく、半日動いたら半日は体を休める。根を詰めずゆったりと。若い頃に1日で登っていた山なら2日、3日かけてのんびり登る計画を立てる。エベレスト登攀の時も、1日の行程を登山常識の半分程度にしました。この方法は大成功で、体力づくりも登山も順調にこなすことができたのです。

現在も、午前中にリハビリをしたら午後はゆっくり休むことにしています。脊髄損傷はすぐに回復する類のものではありません。まだ神経のネットワークができていない感じも残っている。でも、焦っても仕方がないですからね。