三浦雄一郎さんの「私の養生訓」

何かを始めるのに年齢は関係ない

今は北海道で妻と二人暮らし。ただ、私は要介護4、妻は要介護2の状態なので、ヘルパーさんが週に何度か来てくれます。それに3人の子どもたちが入れ替わりで来て食事を作ってくれたり、車で外へ連れ出してくれるのでありがたい限り。大好きな焼肉や、たまには少し遠くまで足を延ばして美味しいお蕎麦を食べに行く。それがいい気晴らしになっています。

頭の働きはそれほど変わっていないと思うけれど、目は少し衰えを感じますね。昔から本が大好きで月に何十冊も読んでいましたが、最近は軽いエッセイなどをマイペースに読むことが多いです。

読書量が少し減った代わり、テレビでのスポーツ観戦は大いに楽しんでいます。オリンピックも毎日のように観ていましたよ。感動する気持ちに年齢は関係ないですから。大変な状況下で、選手たちはよく頑張りました。

今回のコロナ禍もそうですが、生きていると本当にさまざまなことが起こります。しかしどんな状況になっても、自分でできるだけのことをやったら、あとは腹をくくるしかないと思うのです。

これまで山で何度も「もう助からない」という瞬間がありました。頂上付近で体力を使い果たしたり、雪上の深い割れ目に落ちたり、雪崩に巻き込まれたり。ピンチに陥った時は、不安に駆られて焦ったりあがいたりすることが、逆によくない状況をつくります。そんな経験から、「何ごとも、なるようになる」と柔軟に受け止めるようになったのかもしれません。私は自分で「無責任楽天主義」と名乗っていますが。(笑)

それにこの歳になると、自分より若い友達も鬼籍に入っていく。だから生きているというだけで、十分にありがたい。季節の果物を食べたり、友達とバカ話をしたり、家族と団らんしたり。そんな平凡な時間が、今はとても大切なものに感じられます。

リハビリで家の周りを500~600m程度歩くのですが、転ばないように気をつけながら、景色を眺めて季節を感じるのがとても楽しみで。道端のタンポポとか、小さな川のほとりに咲く花を眺めるだけでも幸せだなと思います。

リハビリの先にある大きな目標は、今年の冬に札幌でスキーをすること。その次の目標もあります。私は10月で89歳になりますが、できれば90歳でヨーロッパの最高峰であるエルブルースに登頂し、斜面をスキーで滑りたい。人生に「もう遅い」ということはありません。何歳だろうと、今からできること、これから始められることはあるものです。