『谷崎マンガ 変態アンソロジー』(谷崎潤一郎/榎本俊二/今日マチ子/久世番子/近藤聡乃/しりあがり寿/高野文子/中村明日美子/西村ツチカ/古屋兎丸/山口晃/山田参助・著/中公文庫)

近藤 読んでいて一番愉快だったのが『台所太平記』だったので、山口さんにお伝えしたら、「私は耽美を描きたいのです」とおっしゃっていました。

山口 え! 覚えてないです。(笑)

近藤 『人魚の嘆き』を読むとおっしゃってたんですが、そのあとアメリカに帰ってから、風のうわさで「山口さんは『細雪』にするかもしれない」という情報が入ったんです。

でも『細雪』は相当ぶ厚いから、山口さん、読む時間あるんだろうかって、心配しました。(笑)

山口 高野文子さんが『細雪』あたり描いたらどうかしら、と仰っていたやに聞きまして。先輩二人に挟まれて「あ、じゃあ両方くっつけちゃえ!『細雪の台所』だ!」と……でも上・中・下とある作品なんですね。あと三年くらいかかってしまいそうなので、短い方の『台所太平記』にしました。

 

山口画伯、マンガ表現に四苦八苦

――山口さんには今回、初の本格マンガ創作に挑戦いただきましたが、いかがでしたか?

山口 1ページをコマに割るのがあんなに大変とは思いませんでした。まずネームができないわけです。190ページの小説を縮めるためにどこを切っていいかがわからない。四苦八苦しました。面白いからどんどん描くとページが増えて、一番長いのがしりあがり寿さんの32ページだったので、先輩を差し置いてそれより膨らむのは失礼だろうと縮めようしたら、信じられないくらい時間かかっちゃいまして。

そこでネームを諦め、面白そうなエピソードをとにかく抜き描きにして、あとからページに組んで……と、どこぞの漫研の人が聞いたら鼻で笑われるようなところからコツコツ始めました。ですからそれを込みで考えていただけると、8ヶ月〆切を超過した時間も……いや何でもないです。(笑)

近藤 それは時間がかかると思います。原作からイメージを膨らませて描く場合は、極端に言うと記憶力のいい人なら1回読めばそれでも描ける。でもダイジェストにしようとすると、何十回も読まなければまとめられない。