みんな平等。同じ船に乗っているのです

ぴりぴりした緊張感があった1回目のワクチン接種のときとはえらい違いだ。いったいわたしはどこにいるのだろう、という奇妙な感覚に陥っていると、いよいよ注射を打たれる段階になった。白髪の看護師の女性が眉間に皺を寄せて険しい顔つきでわたしを待っている。お、さすがにここで雰囲気が引き締まるのかな、と思って椅子に座ると、ガラスの衝立の向こうから、隣で接種を受けている男性の声が聞こえてきた。

「これ、インドで流行している変異種にも効くんですか?ほんとはよくわからないんじゃないですか?」

白髪の看護師は、きりっと顔を上げ衝立のそばに近づき、大声で喋り始めた。

「アストラゼネカ社のワクチンを2回接種すればデルタ株にも60%の効果があります。60%を多いと思うか少ないと思うかは、あなたの考え方次第です。が、あなたも60%、こっちの人も60%、みんな平等。同じ船に乗っているのです。ワンダフォー!ははははは」

ヒステリックに笑う看護師を見て、ああ、この人たちは明るいのではなく、疲れ過ぎてハイになっているのだと思った。

ちなみにたったいま、この原稿を書いているときに英国のロックダウン完全解除の延期が公式に発表された。政府が拵えた日程表の上の「現時点」はまだしばらく続くのである。それだけはわかった。すべてペンディングの夏が来る。