私は「言葉と出会い直している」

つい先日も、取材で先方を困惑させてしまった。自分自身について書くことを「千切っては投げ、千切っては投げ」という言葉で表現したとき、先方がZoomの画面越しに「?」みたいな表情になったのである。私の頭の中では、自分の生活や過去の一部を千切っては読者に投げているイメージだったのだが、あの「?」な顔つきが気になってネットの国語辞典で意味を確認すると、「主に格闘や武道、喧嘩などにおいて、圧倒的な強さをもった人物が実力で劣った複数の人物をことごとく打ち倒しているさまを表す表現」と書かれていた。いかん。圧倒的な強さをもった誤用だった。恥の多い生涯を送って来ました。

ここまで言葉の意味を知らず、間違いばかりやらかす人間が、よく物書きをやっているものだと感心するが、前述の対談で、藤原辰史さんがわたしの辞書依存について絶妙のフォローをしてくださった。

わたしは言葉の意味を調べることで「言葉と出会い直している」と解説してくださったのだ。

半世紀以上も生きて今さら出会い直す言葉が山ほどあるというのもどうかと思うが、そこに山があるから人は登るのである。わたしにとって書くという作業はそういうことなのだろう。たぶん。