10月30日公開『老後の資金がありません!』で主人公の姑・芳乃を演じている草笛光子さんは、現在発売中の『婦人公論』11月9日号の表紙を飾っています。88歳の今も、女優として第一線で活躍を続ける草笛さん。年齢による肉体の変化に、やりきれない思いを抱いたこともあるそうで――。発売中の『婦人公論』から記事を掲載します。(撮影=鍋島徳恭 構成=篠藤ゆり)
「そのまんまで、あなたはおかしいですから」
映画『老後の資金がありません!』で、主人公の姑・芳乃を演じています。老舗和菓子屋の女将だった芳乃は天真爛漫で、かわいらしいと言えば聞こえがいいけれど、まわりに迷惑をかけても平気。浪費癖もあり、ちょっぴり困った面もある女性なの。
「どうやってこの役を演じたらいいんですか?」と監督に聞いたら、「変に演じないでください。そのまんまで、あなたはおかしいですから」と言われました。そのまんまでおかしい、だなんて。そんなことを言われたのは生まれて初めて。喜んでいいんだか、悪いんだか。(笑)
たぶん皆さんが「えっ!」と驚くような、おじいさんの扮装で登場するシーンもあります。シナリオを読んで、「これ、本当にやるのぉ?」と思いましたもの。
いざ本番という段になって、実は差し歯が1本落ちちゃって──。これは困ったなと思ったら、監督が「おぉ! 映画の女神様が降りてきた。ぜひ、そのままでお願いします」。ひどいわよねぇ(笑)。でも、「いやだぁ」なんて言いながらも演じ切りました。
役者というのは、やっぱり「扮する」ことが嫌いじゃないのね。結果、歯が抜けたまんまの顔でスクリーンに大写し。あの姿が皆さんの目に焼き付いたら、これから仕事が来なくなるんじゃないかしら。(笑)