歳を重ねれば肉体は衰えるけれど

ところが、最新の映画『老後の資金がありません!』では、越路吹雪さんの「ラストダンスは私に」を歌うシーンがあります。最初は「やだやだ、歌わない!」と抗ったのよ。亡くなるまで親しくしていたコーちゃんの歌を歌うのもつらかったですから。

でも監督からどうしてもと言われ、仕方なく歌うことに。案の定、何度歌ってもなかなかOKが出ません。ところがヤケになって補聴器をパッと外して歌ったとたん、OKに! もう一度、生まれたまんまの《素の自分》になることで、音を取り戻したのね。これは大きな経験でした。

草笛さんの貴重な歌唱シーン ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会

 

嬉しいことに、音楽プロデューサーが飛んできて、「低音がいいですね」と言ってくれました。実は若い頃、アルト歌手に憧れてオペラの先生に弟子入りしたことがあります。それから何十年もたってから低音を褒められ、天にも昇るほど嬉しい気持ちになり、思わず涙ぐんでしまいました。あぁ、私はまだ低音が使えるのか。これからも歌っていいんだ、歌っていける、と──。

歳を重ねれば、誰だって肉体が衰え、老いを実感せずにはいられません。でも、ありのままの自分を受け入れると、新たな世界が広がるんですね。

年齢とともにシワやシミができ、顔がたるんでも、それを受け入れつつ女優としてどう生きていくのか、それが大事。図らずも、私の姿が誰かにちょっぴり勇気をさしあげることができるのだとしたら──こんなに嬉しいことはないわよね。

 

 

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