作家でありながら「対談の名手」とも言われる五木寛之さんは、数十年の間に才能豊かな女性たちに巡り合ってきました。その一期一会の中から、彼女たちの仕事や業績ではない、語られなかった一面を綴ります。第3回はマイルス・デイビスのアルバムのデザインでグラミー賞を受賞するなど、グラフィックデザイナー、アートディレクターとして世界的に活躍した石岡瑛子さんです。(写真提供=読売新聞社)
私が東京五輪のグランドデザインを任せるなら
〈ステイ・ホーム〉で街に出ることをせず、人とも会わず、部屋にこもりっきりの日々を送っていると、することが何もない。
テレビはつまらないし、本を読むのは仕事のうちだし、ごろりと寝そべって妄想にふけるしかないのである。
私の妄想には、さまざまなストーリーがあるのが特徴だ。ストーリーを一から組み立てて、勝手なお話をでっちあげるのである。リアルな妄想というのは変だが、神は細部に宿ると言うではないか。私の理屈では、空想は勝手気ままに繰りひろげればいいが、妄想は細部にいたるまできちんと組み立てられていなければならない。
過ぎ去った東京五輪の功罪は別として、もし私がヒトラーのような権力者だったら、と妄想する。開会式や閉会式もふくめて、そのグランドデザインを誰か一人にまかせるとしたら、いったい誰に委嘱しただろう。
答はきまっている。エイコ・イシオカ以外には、考えられない。そこで妄想だ。