ブラジルの友人からマリさんのもとに届いたメールに「家族が強盗団に襲われた」と記されていました。マリさん自身、ブラジルでは日が暮れたら単独で外出しないように気を付けているそうですが、あらためて日本の治安について考えてみればーー(文・写真=ヤマザキマリ)

友人の家族が強盗団に襲われて

何年かぶりでブラジルのリオデジャネイロに暮らす高齢の友人からメールが届いた。

どうしているだろうかと思っていた矢先だったので、彼が元気であったことには安堵を覚えたが、文面にはブラジルの現在の情勢が綴られており、彼の娘が人生で3度目の強盗に遭って車ごと奪われた、という報告につなげられていた。夜に友人宅から帰る途中、赤信号で止まった交差点で突然数人の強盗団に襲われたのだという。

確かに私もブラジルに滞在する時は、日が暮れれば単独では決して外出しないし、日中の散歩でも所持品は極力持たない。ましてや、コロナによって経済が低迷し始めたことで、生きる苦しさに直面する人々の気持ちはあからさまに荒み始めている。パンデミックの恐ろしさには、経済の悪化による犯罪率の増加も含まれていると実感した。

ネットで調べてみたところ、世界で最も治安の悪い国としてランキングされているのは、主に中南米や中東の国々だ。命の危険という意味では、紛争の続くシリアやアフガニスタンといった地域がダントツで上位になるのはやむをえない。

私が平和だった時代のシリアに暮らしていた頃は、身の危険を感じるような経験をしたことなどただの一度もないし、泥棒や強盗に遭ったという人の話を聞いたこともない。しかし、教義に反すると見なされれば家族間の殺人ですら加害者が正当化されることも多々あるわけで、このような制裁はイスラム信者ではない人間にとっては理解し難いし、紛争にしても神の名の下に行われていて、それで人が死んでしまっても神の思し召しなのだから仕方がないことだ、と考える人たちもいる。

世界全体で治安の捉え方を共有するというのは、じつはなかなか難しいことなのである。