「話をきいてくれて、ありがとう」
「ふーん。今後、どうするの?」
「それをききたくて来たんじゃないですか。このまま地元で好きな歌をうたって過ごすか、それとも、もう一度、東京へもどるか」
「なるほど」
「どう思います?」
「ぼくは、マスコミの世界にもどった」
「後悔してます?」
「してない。決めたことだから」
「そうか」
と、彼女は言った。
「人、それぞれ、だしね」
彼女の口調には、かすかに加賀地方のニュアンスがあった。
「きみみたいな人は、とてもこの土地ではやっていけないんじゃないのかな」
わたしは普通だと思ってるけど、と彼女は言った。
「五木さんは、前にレコード会社にいたんでしょ」
「いや、専属のアーチストだった」
彼女はしばらく黙っていた。その後、ぽつんと自分に言いきかせるようにつぶやいた。
「もう一度、いってみるかな、東京へ」
それから軽く頭をさげると、
「話をきいてくれて、ありがとう」
「西瓜、ありがとう」
「正直、重かった」
黒いうしろ姿が庭先から消えた。