「ブックエンド理論」で最悪のシチュエーションを想像
さて、その後、実況のエンドレスな準備に悩んでいた私がどうしたかといいますと、実は必殺技を編み出しました。その名も「ブックエンド理論」。並んだ本が倒れないように両サイドから支える、あの本立てのことです。
必殺技とはかなり大げさであり、また正確にいうと理論でも何でもないのですが、私にはぴったりの対処法でした。
具体的には、試合における「最悪のシチュエーション」をまず決めてしまいます。そのブックエンドの内側で試合の流れを読む準備をしたのです。
例えば、試合が5─0になってしまったことをブックエンドとします。サッカーでの5点差はほぼ逆転が不可能ですから。
1点差、2点差なら、試合を面白く伝えられる。3点差、4点差までは、1点返せばまだ希望は持てる。しかし、5点差になると絶望的。
5点差になるまでにどう実況するかを大まかに決めるのです。
じゃあ、6点差になったらどうするのか。
その時は「驚く!」(笑)。
そうやって上手に開き直れた時に、緊張は軽減されていきます。逆に5点差までなら対策ができていますから、「運命よ、かかってこい!」という不思議な自信がわいてくるのです。
緊張の正体見たり枯れ尾花、となればみなさんの勝ちです。
※本稿は、『伝える準備』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
『伝える準備』(著:藤井貴彦/ディスカバー・トゥエンティワン)
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