「孤独力」を磨けば「孤立」は招かない

日本社会は本来、江戸の長屋文化に象徴されるように、血縁よりも同じ地域に住んでいることが大きな意味を持っていた社会です。でも昨今は、マンションの隣人の顔や名前を知っている人のほうが珍しいほど。地域コミュニティーは急速に消滅しつつあるのです。

職場環境面でも「日本株式会社」が消滅し、以前のように「一致団結して進む仲間」という意識は急速に薄れ、企業コミュニティーは崩壊したと言っていいくらい。それに加え、家族形態は核家族化が進む。いや応なく、社会は「ソロ化」を余儀なくされていきます。

「特に60代からはソロ立ちを意識して」と言う鎌田先生自身が60代になったころ。2008年撮影(写真:本社写真部)

つまり日本社会は、かつてのように「集団に属していれば安心」という社会ではなくなってきたのです。日本を代表する大企業ですら傾いてしまうように、自分の乗る船がいつ沈没するかわからない時代……。

若い人たちのソロ活動意欲は、こうした時代の空気を鋭敏に察知した結果だと思います。

「孤独」について考えるときに重要なのは、物理的にひとりであることが問題なのではなく、「心が独りぼっちになる」心理的孤立が問題だということです。

繰り返しますが、孤独と孤立はまったく別物です。孤独は自分が望む場所と時間を自分で選ぶこと、つまり「自立」した人間のこと。「自立」はよく誤解されているように、何もかもすべて自分の力で行うことではなく、本当に頼らなければならないときに頼れる相手がいる状態のこと。

それと正反対に、孤立は、いざというときに頼れる人が誰もいないという状態のこと、あるいは社会から外れて生きなければならない状態のことです。当然、頼るべき相手も存在しません。

先ほど触れた編集者Aさんが、コロナに負けず、相変わらず前向きで明るい状態を保っていられるのは、定年前にあった人間関係が、定年後もあまり崩れていないからです。

仕事での関係が終わったら連絡が途絶えてしまうという例も少なくないはずです。でも彼には、僕のように、仕事での関係が終わった後も会って刺激を受けたいとか、話をしてみたいと思う人たちがたくさんいるのです。