更新された父の免許証。令和元年のゴールド免許を誇らしげに

令和の免許証を持っている90過ぎのじいさん

免許を更新する際、高齢者講習の前に認知機能検査を受けることになっている。「どうか不合格になりますように」と祈っていた。しかし父はすんなりパスしてしまい、後日発行されたゴールド免許を誇らしげに私に見せた。

「令和元年と書いてある免許証を持っている90過ぎのじいさんは、そういないはずだ」

「そんなこと自慢しないでよ。見せられて、素晴らしいと褒めてくれる人なんていない。高齢者の交通事故がすごく多いのだから、みんなを不安にさせるだけだよ」

私が何を言おうが、父は他人事としか思わず平然としている。

「運転が下手な人がいるからな」

また私と喧嘩が始まる。

「上手い下手ではなく、年を取ったら判断ミスをするものなの。パパも事故を起こす前にやめて」

「免許を取って60年以上、一度も事故を起こしたことはない。下手になったら自分でわかるから、その時はやめる」

しつこく運転をやめてと言う私に、父は「帰れ!」と怒鳴った。

翌日私は、交通安全センターや最寄りの警察署に相談に向かった。家族としての心情は理解してもらえるのだが、どの機関も異口同音に同じことを言う。

「免許を返上しても、これまでと同じ生活ができることを、お父さんに納得してもらわなければなりません。家族でいろいろなところに連れて行ってあげられますか?」

「はい、できます」とはとても言えない。実際に父が車に乗るのは、ジムに行くときだけではない。父は炊事ができないので、私が行かない日は車に乗って出かけ、出来合いの総菜などを買って食べる生活を続けている。前日に作り置きしておき、それを食べてもらおうとしたら、「レンジでチンしてまで食べたくない」と言われてしまった。

私は頭を抱えた。コロナ禍で出かける場所がなくなっている今こそ、車の運転をやめさせるチャンスかもしれないのに、父の生活を変える方法が見つからない。私は初めて、父の居住地域の社会福祉協議会の地域包括センターに相談に行くことにした。

(つづく)

◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました