一本の木を定点観測してみて
宇多 たとえば駅前の木とか公園の木とか、一本、自分の木を決める。すると、よく観察するようになりますよ。楓なんて、2ミリくらい葉が出たときから、ちゃんと楓の葉の形をしているの。
小林 あれ、かわいいですよね。
宇多 定点観測はお勧めです。
小林 私は毎日ほぼ同じ時間に寝るんですけど、寝る前に窓を開けて月の位置を確認すると、毎日少しずつずれていくのが面白い。
宇多 当節、皆さんあまり月を見ないでしょう。
小林 もったいないです。
宇多 あんないいものはない。それに、タダですよ。(笑)
南 雲も眺めていると、実はどんどん形が変わりますね。
宇多 そうそう。大きいところは天体から、小さいところは2ミリの草の芽まで、すべて季節を表している。それを言葉にしているところが、季語のよさです。
南 桜の花びらが水面に浮かんでるところを句にしたいと思ったんだけど、長くなって五・七・五に収まらない。ずいぶんたって、「花筏(はないかだ)」って季語があると知りました。言いたいことが短い言葉で表せるのは、今まで季語をつくってきた人たちの工夫ですね。
小林聡美×宇多喜代子×南伸坊「俳句をつくれば《退屈》と《あいにく》がなくなる。始めた時が適齢期《おうち吟行》のススメ」〈後編〉につづく
ヘアメイク:
北一騎(小林聡美さん)
スタイリング:
藤谷のりこ(小林聡美さん)
小林聡美さん衣装提供:ブラウス、ニット、スカート/ミナ ベルホネン
出典=『婦人公論』2022年2月号
小林聡美
俳優
1965年東京都生まれ。82年の映画「転校生」でスクリーンデビュー。映画、ドラマ、舞台での活動の他に、エッセイも執筆。著書に『ワタシは最高にツイている』『読まされ図書室』『聡乃学習』『茶柱の立つところ』など。8月からWOWOWで「小林聡美NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ」が放送・配信予定
宇多喜代子
俳人
1935年山口県生まれ。53年、石井露月門下の遠山麦浪氏を知り俳句を始める。70年、『草苑』創刊に参加し、桂信子氏に師事、同誌編集長を務める。現代俳句協会特別顧問。文化功労者。句集『宇多喜代子俳句集成』、エッセイ『俳句と歩く』など著書多数。2019年に第18 回俳句四季大賞、20年に第61回毎日芸術賞受賞(写真撮影:関めぐみ)
南伸坊
イラストレーター
1947年東京都生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。東京都立工芸高等学校デザイン科卒業。美学校で木村恒久氏、赤瀬川原平氏などに学ぶ。雑誌『ガロ』の編集長を務めた。『ねこはい』『私のイラストレーション史』『生きてく工夫』『あっという間』など著書多数