一本の木を定点観測してみて

宇多 たとえば駅前の木とか公園の木とか、一本、自分の木を決める。すると、よく観察するようになりますよ。楓なんて、2ミリくらい葉が出たときから、ちゃんと楓の葉の形をしているの。

小林 あれ、かわいいですよね。

宇多 定点観測はお勧めです。

小林 私は毎日ほぼ同じ時間に寝るんですけど、寝る前に窓を開けて月の位置を確認すると、毎日少しずつずれていくのが面白い。

宇多 当節、皆さんあまり月を見ないでしょう。

小林 もったいないです。

宇多 あんないいものはない。それに、タダですよ。(笑)

 雲も眺めていると、実はどんどん形が変わりますね。

宇多 そうそう。大きいところは天体から、小さいところは2ミリの草の芽まで、すべて季節を表している。それを言葉にしているところが、季語のよさです。

 桜の花びらが水面に浮かんでるところを句にしたいと思ったんだけど、長くなって五・七・五に収まらない。ずいぶんたって、「花筏(はないかだ)」って季語があると知りました。言いたいことが短い言葉で表せるのは、今まで季語をつくってきた人たちの工夫ですね。

小林聡美×宇多喜代子×南伸坊「俳句をつくれば《退屈》と《あいにく》がなくなる。始めた時が適齢期《おうち吟行》のススメ」〈後編〉につづく