神武天皇をたすける輪

まず、前者のほうから説明をしておこう。

神武は、伝説上の初代天皇である。日向から大和地方へ軍勢をおしすすめ、橿原で即位をしたことになっている。だが、大和盆地へはいる前に紀伊の国、和歌山の新宮あたりで病をわずらった。横たわっての療養を、余儀なくされている。

その病床を、現地のタカクラジという男がおとずれた。見舞いの品として、一本の刀を贈呈してもいる。ゆずられた神武は、健康を回復した。刀には治療の効能もそなわっていたのである。タカクラジはそんな刀の由来を、こう神武に語っている。

自分は夢でアマテラスを見た。夢にあらわれた女神は、タカギノカミとタケミカヅチノカミもともなっていたという。さらに、彼らは語りかけてきた。この刀を、神武にさしだせ、と。

また、夢のなかでタカギノカミは、こうもつげていた。神武には、天上からヤタガラスをつかわす。今後はその案内にしたがい、つきすすめ、と。

神武は、タカクラジが夢で聞いた刀をうけとり、元気をとりもどす。また、あとでやってきたヤタガラスの指示にしたがい、橿原での即位を勝ちとった。

アマテラスひとりが、神武をすくったわけではない。ほかの神々も、神武をたすける輪にくわわっていた。うまく道がきりひらけるよう、彼らは智恵をかしている。そして、その力ぞえは、神武のもくろみを成就させた。このくだりは、アマテラスもふくむ神々の加護が、神武に成功をもたらす話となっている。