イラスト:竹井千佳
2021年の厚生労働省の発表によると、日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳といずれも過去最長に。前の年からは女性が0.3歳、男性は0.22歳延びています。しかしいくら寿命が延びて体力や気力に自信があっても、聞こえてくるのが体の悲鳴。想定外の事態に直面した人々はそれをどう乗り越えたのでしょうか。70代の藤本亜矢子さんの場合、健康そのもので、我が世の春を謳歌する夫にまさかの事態が起きたそうで――。

年をとったら夫に仕返ししてやろうと

74歳の夫は家にいたためしがない。障がいのある息子を抱えて一番そばにいてほしかった時期も、仕事で海外を飛び回って留守ばかり。

息子が22歳で亡くなったとき、イランにいた夫はなかなか帰国できず、遺体をドライアイスで覆って待ったっけ。年をとったら仕返ししてやろうと、心に誓っていた。

2年半前、夫婦で住み慣れた東京を離れ、2人の故郷・福岡を終の住処とすることに決めた。その準備を進めていたある日の朝、起きてきた夫の様子がおかしい。「おしっこが出ない。薬局行って何か薬買ってきてくれ」と言う。

高い健康保険料を毎月払っているのに、保険証を使ったことがないのが自慢の夫。高齢でも健康診断すら受けず、薬も飲まない。「自然のままが一番いいんだ」が口癖だった。

そんな夫が薬を求めるなんて、よっぽど苦しかったのだろう。一日中ベッドであえいでいた。病院に行くことをすすめる私の忠告を無視し続けていたが、もう薬どころではない。朝を待ちかねて、総合病院に向かった。