深夜2時の「ワーッ!」という絶叫

福岡に移っても夫の放浪癖は収まる気配がなかった。飲む、打つ、吸うの3拍子で、我が世の春を謳歌していた。だが保険証をまとめて使わねばならない時期はそこまできていたのだ。

それまでにも自覚症状があったに違いないが、気にしない、言わないデタラメ爺さん。その日も、早朝5時に起きてゴルフへ出かけていった。

夕方、私が外出先から帰宅すると、めずらしく帰ってきて寝ている。いつもなら外食して遅くなるのに、と思っていると、夫はむっくり起きてきて言った。「どうも体がおかしいが酒を飲めば治るだろう。ちょっと肴買ってくる」。

夜10時ごろ、となりの部屋から「ウーッ」という声が聞こえたような気がしたが、さっきスーパーに行ったぐらいなんだから、と様子を見にいかなかった。後になって、このときの自分の冷ややかな態度をどれほど悔やんだことだろう。深夜2時、今度ははっきり「ワーッ!」という絶叫。即、救急車を呼んだ。

急性心筋梗塞、2度の心臓破裂。8時間に及ぶ手術。担当医から、心臓からの出血が止まらないので、手で押さえている、覚悟しておくようにと言われる。青天の霹靂。ちょっと前まで、あんなにタフガイだったのに。早く私が気づいていれば、もっと軽くすんだはずだ。過去の夫への不平不満はきれいに吹っ飛んだ。

朝が来て、近所に住む私の姉夫婦、娘たちがかけつけてきた。大阪に住む夫の弟にも電話。そうこうするうちに血は止まったらしい。破れたところに当て布をしてふさいだとか。当座の危機は脱したようだ。

病室で付き添って見ていると、意識のない夫の顔は血色がよく、腕は日焼けして太い。重病人にはとても見えなかった。後遺症が残り、これまでのような奔放な生活は送れないかもしれない。

でもいくら地獄の晩年が待っていようとも、このまま死なせるわけにはいかん。私を残して逝くなんてあまりにも身勝手すぎる。どうか戻ってきておくれ。過去はすべて許すから。仏壇の息子に何度祈ったことか。