人生後半も心豊かに

数年前までは、いつも何かに打ち込みながら、ずうっと毎日忙しくして生きてきた気がします。一日中、撮影の仕事を目一杯やって帰宅するでしょ。自分ひとりだからといって、ソファにぐたーっと寝そべって過ごすなんて考えられない。

あちこち片付けたり、植木の世話をしたり、ピアノや三味線のおさらいをしたり……休むということを知りませんでしたね。たとえば、帰宅途中に突然大雨に見舞われたら、時間がもったいないからと、ずぶ濡れになってでも全力疾走して家に帰るタイプ。

それが、両親の介護が落ち着き、コロナ禍で時間がたっぷりできたことで、すっかり変わってしまいました。人生に与えられた残りの時間を明るく楽しく過ごしたい。そのためには、何をすれば自分が楽しいか考えるようにもなりました。

フラメンコやフランス語などいろいろ習い事をしてきましたが、今は50代から始めたピアノと三味線に落ち着いています。ピアノは映画でピアニストの役をやらせていただいたことがきっかけ。バイエル、チェルニーと進んで、ソナタまで終えたら、お気に入りの曲はある程度弾けるようになり、もう楽しくて。そりゃあ、小さい頃からレッスンを始めたほうが上手になるに決まっています。でも、大人になってからの楽しみ方があるんですよ。

三味線も、ドラマで三味線の名手の役をいただいてから始めました。うちに祖母の遺してくれた三味線があって保存状態がよかったので、稽古を開始。せっかくなら、小唄もやらないとならないじゃないですか(笑)。小唄の歌詞って、揺れる女心が唄われていたりして、大人だから味わえるんです。それでおもしろくて10年くらいお稽古を続けて、名取になりました。

いまは、外出先で雨が降ってもダッシュしないで、どこかで雨宿りをし、その時間をもゆったり楽しめる私になれたと思います。部屋の片付けも、時間に追われながらやると「やらなくてはいけない作業」なのに、急がずにやると楽しめることに気づきました。生活することそのものを、ゆっくり味わえるようになれたといえばいいのかな。なんだか、さらにひとり上手になっちゃった気がしています。