浮かび上がったケアに対する「労働観」
コロナ禍のもとで、怒り心頭に発したことがあります。
医療現場と介護現場で人手不足がいわれました。医療現場での人手不足は、退職した看護師さんや保健師さんで補充しなさい、看護師資格を持った大学院生を使いなさいと政府はいいました。
ところが介護現場の人手不足に対して、2020年に厚労省が出した通達では、「無資格者を使ってよい」としました。医療現場で無資格者を使ってよいとは、決していいません。ですが介護現場なら無資格者でもいい、といったのです。
唖然(あぜん)としました。
介護保険ができて20年たって、いまだに政策決定者たちは、介護というものは、女なら誰でもできる非熟練労働だと思っているのか、と。
介護保険20年目にして、こういうケアに対する労働観が、これほど変わらないのかと、再び痛感せざるをえませんでした。
※本稿は、『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
『最後の講義完全版 上野千鶴子 これからの時代を生きるあなたへ 安心して弱者になれる社会を作りたい』(著:上野千鶴子、NHKグローバルメディアサービス 、テレビマンユニオン/主婦の友社)
「あなたは人生最後の日に何を語りますか」という問いに答え、各界著名人が1度きりの特別講義をするNHKの人気番組「最後の講義」。本書は社会学者・上野千鶴子さんによる回のテレビ未放映部分を含んだ完全版。家事が不払い労働であること、家事、育児、介護、看護がすべて一人の女性の負担になってきたことなど、女性の幸せのために研究してきた上野さんの歴史、そして考えるべき女性学・ジェンダー学の問題点がここに!