一時期、公園で暮らしていたというサヘルさん。工場へ働きに行く養母とはベンチで待ち合わせをしていたそう。養母と家族になった頃(写真:講談社)

何の見返りも求めない優しさを渡してもらって

あるとき、いつものように試食をもらって帰ろうとしたら、試食を出してくれているいつものオバさんがいるのですが、通路でそのオバさんに呼び止められました。ヒヤッとしました。私たちは、怒られるんじゃないかと。

いつも外国人親子が来て、試食コーナーだけをあさって帰る私たち親子のことを、今日こそは絶対に怒られると思いました。逃げたほうがいいのか、早く出て行ったほうがいいんじゃないかと、ちょっと焦りました。

すると、その試食コーナーのオバさんが、「これを持って行っていいから」と紙袋を差し出したんです。中を見たら、自分のおうちにあった食べられるものをいっぱいその袋の中に詰め込んであって、それを私たちに渡してくれました。

きっと、公園で生活しているとまでは知らなかったと思うのです。ただ、何か事情を抱えて困っているのだろうと、きっとそのオバさんは察してくれて、私たちのために食べられるものをありったけおうちから持ってきて渡してくれたのでした。

すごく嬉しかったです。多分、その方が日本ではじめて、私たち外国人に普通に声をかけてくれて、何の見返りも求めない優しさを渡してくださった方です。それが本当に温かくて、幸せでした。