試食コーナーをまわって

そんなときに目に入ったのが試食コーナー。今は日本語も理解できるので試食についてもちろんわかりますが、当時は試食という言葉も文化も私たちは知らないしわからなかったのです。

私たち外国人からすると無料で何かをもらうという発想がまったくなかったので、きっとあれを受け取ったらお金が発生すると、私たち親子は思っていました。なので、何度か目にしながらも、一度も受け取ったことがなかったのです。

フローラに止められていたのに、ある日、おなかが空き過ぎた私は我慢ができずに、試食品を受け取ってみたのです。

ほかの人もお金を払わずに試食していきます。「お金を請求されないんだ!」とわかるとすぐにフローラの分ももらいました。

今でも忘れていません。

私たち親子が日本ではじめて食べた試食は、春雨のごまあえ。すごく美味しかったです。でも、試食ってひと口かふた口なのですが、でもそれがなぜか本当に幸せで。その瞬間、すごく多くのことを感じました。

ご飯というのは、別に量とか豪華とか、そういうことではなくて、一口ひとくち、人間って かみしめて食べることで本当に幸せを感じられる。おなかをいっぱいにすることもできる。何よりも誰と食べるか。それがすごく大事。

そして試食がゼロ円だとわかった瞬間から、私たちは試食コーナーを1周して、フルコースでいただいて。運が良いときはデザートつきで、おなかをいっぱいにして帰って行きました。そして、毎日その試食コーナーを、ひたすら毎日あさっていました。