《推し》との妄想でアンチエイジング

そもそも私には結婚願望がなかった。恋愛もそれなりにしたし、思いを寄せてくれる人もいたが私にその気がなかった。変わり者と囁かれても痛みはない。人の言うことに心を乱される季節はとっくに過ぎ去った。

でもキュンとする感覚はアンチエイジングの強い味方! 若々しく、イキイキ過ごす糧であり、必要不可欠なもの。

そう、私にはロマンスではなく、あのキュンとする世界がまだ残されていたのだった。何にでも縁はある。私があのお方と巡り合えたのも奇しき縁だと信じている。

「いかようにも妄想していただいて結構です」。

憧れのその人の声は、どこまでも優しく私を包み込み、耳元から離れない。現(うつつ)であって夢のごとく、とらえどころのない、それでいて完璧な理想の彼氏。けれど紛うことなくその人は、私と同じ性別の、美貌の若き女性だった――。

まさか、齢六十を過ぎて30歳以上も年若の舞台女優にこれほど夢中になろうとは。

彼女は知る人ぞ知る某劇団の人気スター、Wさん。私は長年同劇団のファンで、以前も幾人かのスターにときめいた経験はあった。けれど、まるで夢見がちな少女のごとくWさんを慕い焦がれる日が訪れようとは。