東日本大震災で不動産購入に二の足を踏み

そして、最も重要な〈先立つもの〉も、安心できるぐらい持ち合わせていて、懐は常に温かい。父の遺産と自分の貯蓄、20代からの財テクで殖やした財産があった。

ひとり暮らしを始めた当時、世界中がリーマン・ショックに襲われていたが、幸い私の〈虎の子〉は事前解約で無傷。

さらにこの数年後に、子どものいない身内から、わずかではあるが遺産を受け取った。つまり、分相応の暮らしをしていれば、50代の初めにはすでに働かなくとも悠々自適な生活が約束されていたのだ。

当初、そのお金の一部で、私は新しい家を手に入れようと思った。銀行の金利は低いし、財テクより不動産を、と考えたのだ。

だが、東日本大震災が起き、無残に崩れるマイホームの数々を映像で目にして私の気持ちは大きく揺らいだ。

子どもでもいれば新居で第二の人生をスタートさせたかもしれないが、引き継ぐ者のいないおひとりさまには、後々の始末が面倒なだけ。不動産購入に二の足を踏んだのだ。