1932年生まれで、今年90歳を迎え、いまだ日刊の連載を抱える現役作家・五木寛之先生。数多くの小説やエッセイを執筆する一方で、これまで多くの著名人・文化人と出会いを重ねてきましたが、自分の中のある部分のおかげで、対面した相手が胸襟を開いてくれたと感じているそうです。(構成◎篠藤ゆり 撮影◎本社・中島正晶)

人の肉声を伝える「対話」が自分の本来の仕事

ときどき眠れない夜に、今まで対談した人の顔を思い浮かべ、人数を数えたりすることがあります。ほとんど700人を超えたあたりで眠くなりますが、たぶん1500人を下らないでしょうか。

「この人と会いませんか」と言われ、断ったことは基本的にありません。なぜなら人間というものに対する興味が尽きないからです。僕は小説も書いていますが、実は人の肉声を伝える「対話」が自分の本来の仕事であり、天職であるとさえ思っているのです。

もちろん1回の対談で、その人のすべてがわかるわけではありません。いや、何回会ったところで、他人の内面は理解できないでしょう。しかし、ほんの束の間の出会いだからこそ見えてくるものもある。そこが「一期一会」の面白さだと思う。

『一期一会の人びと』はそうして対談した人々の思い出を書いた回想録です。

たとえば世界的なロックミュージシャンのミック・ジャガー。彼からステージの感想を聞かれ、セットがロシア構成主義を思わせると話したところ、我が意を得たりといった感じで乗り出してきました。「これまで音楽関係の人は、誰もそこに気づいてくれなかったんだ」と。

そこから美術や小説の話で、おおいに盛り上がった。好きな美術や小説がいわば依代になり、言葉の壁を越えて、一瞬でつながりあえたものでした。世間的には不良っぽいイメージで見られがちなミック・ジャガーが、実は大変なインテリであるというのも面白い発見でした。