これも戦いの一つのありかた

この長い訴訟合戦のすえに勝利を収め、末武名の名主職を獲得したのは中原氏女とその夫だったが、藤原氏女はなおもあきらめず、その五年後に中原氏女が亡くなるとまたしても名の返還を訴え出ている。

血こそ流れないものの、これも戦いの一つのありかたである。

命がけで所領を守る「一所懸命(いっしょけんめい)」の精神は武士だけでなく「凡下の輩(ぼんげのやから。ただの一般人のこと)」とそしられた藤原氏女にもしっかりと根付いており、それを守るためなら女性であっても何度でもくじけず戦いを挑むのに躊躇はなかったのである。

※本稿は、『歴史と人物7 面白すぎる!鎌倉・室町』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


『歴史と人物7 面白すぎる! 鎌倉・室町』(中央公論新社編・刊)

保元、平治の乱から応仁・文明の乱までの15大合戦と、「男と女」「復讐」「武士の生活」などの9つのキーワードで、鎌倉・室町の実像を生き生きと描く。単に合戦の経緯を解説するだけでなく、合戦が起こった時代背景や原因、対立した人物や一族郎党の相関図、合戦の結末がどう政治情勢や時代の動きに影響を与えたのかを、多角的に解説する。また、テーマ解説では、最新の中世研究を抽出し、リアルな中世像を展開する。