世界幻想文学大賞受賞!『おばちゃんたちのいるところ』。〈死んでからのほうが生き生きとしている妻〉が放つ爽快な本音とは? 同書より、共感必至の短篇「楽しそう」前半部を公開します。

「楽しそう」


 髪が伸びるまで三年待つなんて気が狂ってる。

 確かに髪が長い方が振り乱して脅かすときに雰囲気が出るけど、でも今じゃウィッグとかもいろいろあるし、とにかく三年待つなんて馬鹿げている。

 だいぶ前に死んだとき、その頃の風習で髪を剃られたのだけど、死んでからの世界で目覚めて、命よりも大切な髪だったのにと嘆きながら(もう死んでるのにどうかしてた)、恐る恐る自分の姿を三途の川に映してみると、白装束姿の私につるつるした頭はなんだかけっこう似合っていて、拍子抜けしてしまった。生きているときは気づかなかったけど、私は頭のかたちが良かったのだ。

 死ぬ前は夫に後妻ができることが悲しくて悔しくて仕様がなかったのだけど、いざ死んでみると、憑き物が落ちたようにもうぜんぜん気にならなかった。幽霊は怨念がどうとかいうけど、そんなのは意外とイメージでしかなくて、どっちかというと、生きていた頃の私の方が怨念に溢れていたような気がする。

 新しく妻を娶るようなことになったら化けて出ておいでと夫に言われたので、一応顔は出した。後妻を迎えるのが案外早いなとは思ったけど、まあ、仕方ないだろう。だって一人じゃ何もできない人だったし。最愛の一人っ子である彼に新しい妻を探そうと奔走する義母の姿が目に浮かんだ。私が病気になったとき、心底義母は残念そうだった。

 髪がロングヘアーになるまで待っていたら普通に三年ぐらいかかりそうだったし、はじめに言ったみたいにそんなことしたら馬鹿みたいだと思ったから、もうつるつるの頭のままで現れることにした。本当のところ、私は面倒くさがり屋だったのだ。生きている間はそれがばれないようにいじらしくがんばっていたが、死んだのだからもう私の好きにする。