『おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are』(著:松田青子/中央公論新社)

 久しぶりに訪れたかつての我が家は少しも変わっていなかった。変わったのは、薄い布団の中で、夫の隣にいるのが私じゃなくなったことぐらいだ。新しい妻はぐっすりと眠っていた。顔は見えなかったけど、無理して見ようとも思わなかった。私は元夫の肩をとんとんと叩いた。彼はすぐに目を覚ました。

 つるつるの頭をした私を見たら恐がるかなと思ったけれど、元夫はげらげらと笑い出した。

「それ、似合うじゃん」

 もちろん時代が違うからそんな言い方はしなかったけど、今のニュアンスで言ったらそんな感じだった。

 私もさわり心地のいい自分の頭を照れくさそうになでながら、笑う。

「葬式のときにも見たじゃん」
「だって、あんときはそれどころじゃなかったから。おまえのことがかわいそうでかわいそうで」
「あ、そう、ありがとう。まあ、この通りそれなりに元気にしてるし、そっちも楽しくやんなよ」
「うん、わかった」
「じゃ」
「じゃ」

 そうして、私たちはもう一度別れた。一回目のときより、いい別れだったと思う。一回目のときは、私は死にかけで、実際その後死んだし、相手も看病と悲しみでぼろぼろだった。思えば、二人とも自分たちに降りかかった悲劇に酔っていた。それって、今の私に言わせれば、あんまりカッコいいことじゃない。

 それ以来、私はずっとスキンヘッドを貫いている。