2月3日、旅のフィナーレとなる合唱の発表会が開催

船内は引き続き華やかなイベントに彩られていた。

エンターテイナーとして乗船しているプロによるダンスショー。プロの音楽家によるピアノやバイオリンの演奏が、旅のフィナーレを盛り上げた。

合唱の発表会も、一大イベントの一つだった。

(夫とともに、2度目となるダイヤモンド・プリンセスでのクルーズ旅行を満喫していた石原)美佐子が船旅の間、楽しみに参加していたサークル活動の総仕上げとなる催しである。

船の5階中央部に位置するアトリウムが、発表会のステージ代わりになった。

そこは7階までの吹き抜けになっていて、船の中とは思えないほど開放感がある。床の中央には大きな円い幾何学模様のタイルが張られ、わきには白いグランドピアノ。高い天井からは、春節を祝う中国風の赤いランタンがいくつもぶら下がっている。

新型コロナウイルスという見えない敵が近づいてくる中、船内のアトリウムでは旅のフィナーレを盛り上げるためのイベントが開催されていた(写真はイメージ。写真提供:PhotoAC)

指揮者の女性を取り巻く人たちは、コーラス隊と見物人を合わせて100人は超えていただろうか。隣の人との距離は肩や腕が触れあいそうなほど近かった。

6階、7階の吹き抜けに面した手すりに寄りかかってのぞき込む人や、階段に立ち止まって見下ろす人がおり、歌う人たちの頭上も人でいっぱいだった。

美佐子は長くピアノをたしなんできたこともあって、音楽は得意分野だ。ピアノは先生についてレッスンを続けている。ピアノを通じて声楽にもなじみがあったから、思いきり大きな口を開けて声を出し、意識して表情豊かに歌った。

曲目は、「さくら さくら」。外国人の乗客も一緒に日本語で練習してきた。

さくら さくら

のやまも さとも みわたす かぎり

かすみか くもか あさひに におう

さくら さくら はなざかり

いまはまだ寒さが厳しいけれど、来月後半にはもう桜が見られる――。歌いながら美佐子はそんなことを考えていた。