半日も早まった横浜港への到着

船は、いつになく速度を増して洋上を滑るように進んだ。

それまでは、クルーズ船らしくゆったり航行していたはずだが、このときは時速20ノットをかなり超えるスピードが出ていた。横浜に着いたら日本政府の関係者が乗船し、船の状況を調べに来るという。船は、それに対応できるよう、早めに目的地へ向かうことにしたのである。

午後8時ごろ、ダイヤモンド・プリンセスは横浜港に着いた。もともとの到着予定は4日の朝だったから、半日も早まったことになる。

海上保安庁の巡視艇に乗せられた横浜検疫所の検疫官20人ほどが、ダイヤモンド・プリンセスに乗り込んだ。

※本稿は、『命のクルーズ』(講談社)の一部を抜粋したものです。引用にあたり、数字・漢字の表記を改め、一部言葉を補いました。


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2020年2月、3711人の乗員乗客を乗せたダイヤモンド・プリンセス号の船内で新型コロナウイルスの感染が拡大。乗客乗員を船内に隔離したまま、1カ月半にわたり横浜港・大黒ふ頭に接岸することとなり、最終的に死者は13人、感染者は712人にまで及んだ。混乱をきわめた船内で、医師たちは困難なミッションにどうあたったのか? 「薬を」「情報を」焦燥を募らせる乗客の気持ちに、彼らはどう向き合ったのか? やがて迎えた、大切な人との別れーー。医師、乗客への重厚な取材で描きだす、感涙のノンフィクション。