船内放送によって乗客に伝えられた感染情報

ダイヤモンド・プリンセスに事態の深刻さが伝わったのは午後になってから。那覇検疫所による仮検疫済証の失効が告げられたのである。もちろん、下船した乗客の感染判明が理由であった。

接岸したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に向かう関係者ら。2020年02月12日撮影(写真提供:読売新聞社)

 

下船客の感染情報は、船内放送によって乗客に伝えられている。

香港で船を下りた乗客が、新型コロナウイルス陽性だった―。

各部屋に「健康に関するご案内―新型コロナウイルス」と題する知らせも配付された。それには、香港の保健当局による通知内容が記されていた。この乗客は、1月20日に横浜港を出発して、25日に寄港した香港までダイヤモンド・プリンセスに乗船しており、下船から1週間たった2月1日に検査結果が陽性とわかったという。

感染者が、具合が悪くなる数日前までこの船で過ごしていたということは、いま船内にいるほかの人びとにも感染しているおそれがあることを意味していた。

美佐子には、放送の記憶がない。

滞在していた14階の部屋は、ロケーションは最高だったが、船内放送が聞こえにくいことがあった。こんなにも重大な放送を覚えていないのは、そのためだろうか。

合唱の発表会を終え、夕方に美佐子は何となく体がだるくなった。ディナーもそこそこに自室に戻ってベッドに入ると、のどがひりつくように痛んだ。

「合唱で大きな声を出しすぎたかしら。のどがかれちゃったのね」